2021年3月下旬に発売されるとニュースがあったものの、実際に入手できるまでに何ヶ月も、いや年単位で待つことになったレンズ。
レンズとしての描写能力、35mmという画角、そして最短撮影距離は0.7mよりも短い0.3m。ライカが送り出す最高のレンズの一つでありつつ、次の時代を見据えた一本なのではないかと感じる。
このレンズを一定程度使ってみて感じたことをこのタイミングで記事にしておきたい。
なお本記事のアポ・ズミクロンM 35mmで撮った写真は全てM10-Rにつけて撮ったもので、ほとんどJPEGそのまま。アポ・ズミクロンM 35mmが写っている写真はSummilux-M 50mm/f1.4かLeica Q2で撮ったものです。
開封と外観
まずは開封と外観から。届いたときに撮影しておいたもの。
箱と開封
レンズとともにフィルタも購入。
公式サイトを見ると、日本語ではアポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.と表記されている。一方、サイトの言語設定をUSAやオーストラリアに変えるとLeica APO-Summicron-M 35 f/2 ASPH.と表記される。
届いた箱に記載の名前はAPO-SUMMICRON-M 1:2/35 ASPH.
あえて表記を変える理由が気になる。。
レンズは黒レザーのケースに入っている。
レンズ本体
フードは特定の位置で止まるようになっている。
レンズとM10-R BP
レンズはとてもコンパクト。M型ボディとよくマッチする。
ただし300gほどの重さがあるので、M10-Rの660gと足すと約1kg。なかなかのずっしり感はある。
かっこいい
0.3m-0.7mの撮影距離
続いて、このレンズの特徴の一つである0.7m以下の最短撮影距離について。
フォーカスリングを無限遠から回していくと0.7mの地点で一度クリック感を感じるようになっている。
0.7mでの絶妙な抵抗感ののち、超えていくと0.7-0.3mまでフォーカシングできる。
0.7mから0.3mの間は距離計は連動しない。レンジファインダーをのぞいたままではピント合わせはできない。
なので、数ヶ月使ってみて撮影のスタイルは以下のようになった。
まず被写体との距離を掴む。0.7m以上だったら普通にファインダーをのぞいていつも通り撮影。0.7〜無限遠は90°程度(概ね135-225°あたり)でありピントノブもあって、SUMMILUX-M f1.4 50mm ASPH.・Summicron-M f2/50mm 3rdと同じ感覚。
ぐっと近づいて撮りたい、と思ったら。まず最初にフォーカスリングを回して0.4mとかまでぐるっと回す。先にこっち。続いてLVボタンを押して液晶画面を表示させ、最後のフォーカシングの精度をあげる。
この際、あまり画角をそれほど気にしないなら(後でクロップすればいいと思うとき)、フォーカスリングには触らずにカメラの位置を前後させて撮ることも多い。
このレンズのフォーカスリングの回転角は300°あって、グルっと一周回すイメージになる。カメラを右手で支えて液晶見ながらぐるっとフォーカスリングを回すのに僕が慣れてないだけかもしれないけど、やりにくいのでこうしている。
こういう撮り方なので、LV時サムホイールでズームする機能を設定して、ピーキング機能とあわせてフォーカシングしている。
関連記事:Leica M10-R 個人的な使い方と各種設定、お気に入り登録内容
最短撮影距離30cmの威力
子どもを近づいて撮ったり、モノ撮りをしたりするときに多様する。35mmレンズでの30cmの最短撮影距離は本当に使い勝手が広がる。
次の写真は撮影距離70cmから撮ったもの。35mmという画角だとテーブルフォトが難しいことがよくわかる。
続いて最短撮影距離30cmで撮影。
ここまで寄れる。ボケる。
使ってみての印象
ブログに載せる写真はファイル容量を落としてしまっているが、拡大するとそのシャープさはさすが。
35mmという画角は見たままを記録する上で1番しっくり来る。このレンズも光の捉え方が美しくて、35mmの画角でそのとき目の前に広がっていた光景を美しく残してくれる。
「僕はこう見るよ、世界は美しいでしょ」と語るかのようだ。
F2だけど立体感を感じる写り。
以前<ライカと絵画?>という記事を書いたが、このレンズもそんな印象。
明るめに撮っても光を美しく捉えてくれるし、露出アンダー気味に撮っても絵になる。子どもの写真ばかり撮っててブログに載せる写真が少ないので、もっと持ち出して写真をたくさんとりたい。
気になるところ
レンズだけで全てを完璧に対応するというのは難しいようで、糸巻き型歪曲収差と周辺光量落ちは残るように思う。
個人的に周辺光量落ちは大好物なのでむしろ残して欲しいのだが、四隅に引っ張られるような歪曲収差は被写体によっては気になると思う。
以下2枚もJPEGそのまま。
ライカウェブサイトのテクニカルデータにはDistortionのグラフが示されていて、そんな雰囲気はある。
Leicaは色収差など後で補正しにくいものを徹底的に対応して、デジタルで補正しやすい収差は優先順位を落としたのだろうか?
そういえばライカは2021年にカメラのパースペクティブコントロール機能を追加している。
また、とにかく瞬間を逃さずに撮っておいて後でトリミングすることもある(だからレンズ・カメラは引き続き高画質化に対応していく)、とライカの方が言及していた記憶がある。
なので、後で補正できるものは後で補正したらいいじゃん、という発想なのかもしれない。
ライブビューやEVFを必要とする最短撮影距離(30cm-70cm)・必要に応じてデジタルでの補正も視野に入れた(もちろん想像であって不明だが….)設計と並べてみると、このレンズはデジタルカメラ&電子データを前提にした設計から生まれたのではないかと想像。フィルム時代ではきっと生まれなかったであろう現在のレンズ。まったくもっての妄想だが、そんなふうに感じた。
レンズの解像度はカメラ側の性能ががさらに向上しても耐えられる設計になっていると聞く。1億画素超とかでも大丈夫なのだろう。そこまで必要な場面がどのくらいあるのかわからないが、今後長くライカのラインナップの中で中心に君臨するであろうレンズだと思う。
おわりに
このレンズのお値段はM10-Rと同じくらいする。驚くほど高い。
ただ、これまでの35mm単焦点レンズ with 最短撮影距離0.7mでは撮れなかった写真も撮れるので、レンズ2本分の価値があるとも言えよう。いや、超高画質ゆえトリミング耐性もありQ2のような使い方のイメージで50mmも75mmもカバーできる、といった解釈をすれば1本で何本分の仕事をできるとも言えるかもしれない。
そう思うとお値段こんなもんか、とな….らないのだけど。。
とはいえ、僕はLess is More.という言葉が好きで、一本であれもこれもできるレンズが欲しかったし、クオリティはライカが誇る最高のものだし、どうせ色々欲しくなるなら最初から最強のレンズに行ってしまった方が悩む時間と複数のレンズを持つよりもトータルで良いだろう、と判断した。だから今、ガンガン使っている。
レンズを迷ってウェブやお店を彷徨うことはこれでなくなった。
これを徹底的に使い込んで、そして、たくさん写真を撮りたい。
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