「安全の鐘高らかに – 背中に学ぶ現場の管理」丹羽 三千雄 著を読んだ。2001年に書かれた本である。
普段読まないような本を手にとることも悪くない。
ジャンルの違う本ほど、学ぶことが多かったりするもの。
この本は現場の安全に関する本である。最後まで読むと本のタイトルがより重みを増すような内容になっている。
現場の管理を行う人、管理者、安全管理を行う人、皆が一度は読むべき本であると思う。
著者は東レの生産現場で製造部長、工場長、事業場長を努めた方。現場を知っている方。
冒頭、取り返しのつかない事故の話から始まる。
そこから綴られる著者の経験と試行錯誤の日々。
怪我も程度が悪ければ一生残ってしまう。死んでしまったらその人は帰ってこない。現場で仕事をする人にとってそういった失敗は絶対に避けたいことである。
この本では、著者の経験から多くを学べる。怪我や死亡災害は少ないほうがいいに決まっている。
こればかりは実際の経験から学ばないようにしたいこと。
今日は読み終えて心に残ったことをまとめておきたい。
この内容はデスクワークをする人にとってほとんど興味がわかないものである可能性が高い。でも働くひとの安全は何よりも重要であることは知っておく必要がある。
だから1つの記事として残します。
「臆病こそ知恵である」
あのシェークスピアも「最大の安全は物事を怖れることである」と語りかけていたという。
過信したときほどミスや事故は起こる。常に怖がるくらいがちょうどいい。チャレンジする場所と安全を優先する場所を間違ってはいけないということと理解した。
大丈夫かな、と思って現場を見ることの大切さをあらためて認識。
「危ないと思ったらマシンを停めよ」
資本主義な世界、多くの企業が厳しい条件のもと競争にさらされている。
似たような製品なら安い方が買われる。Amazonや楽天などで簡単に価格比較ができてしまう時代。
現場で仕事をしていると、なんとか機械を効率よく動かし続けて稼働率を高めたいと思うことは自然。
そんなとき、現場のトップが「危ないと思ったらマシンを停めていい」と言えるかどうか。安全第一とはそういうことなのではないか。
競争力がなくなってしまうなら、どうしたら安全確保しながら競争力も維持できるか知恵を絞りなさいということなのかなと。
難しいのだけど、事故が起きてしまったらおしまい。
安全を意識すると、結果的には生産性が高まるという研究結果もあるらしい。現場をよく見ることになるし、事故が減ることによって結果的に生産効率が上がるということなのかもしれない。
率先垂範
本の中で何度も登場するテーマがある。
それはリーダーの率先垂範の姿勢。形を変え、内容を変え繰り返し語られる。
HDD用モーターで世界のトップ企業に育て上げた日本電産の永守重信さんの著書に出てきた内容にも触れ、
「リーダーは同じことを一日百回、一年間しつづけて実践してゆけば、やがては部下は何も言わなくてもリーダーを見習うようになる。その情熱、熱意、執念は必ず部下に通じ人は動く。それこそが真の教育であり人を動かす最大の要素である。人は理屈では動かぬ。」
そして自身の考えも以下のようにまとめている。
…そんなとき自分の気力を支えてくれたものは、これまで述べてきた先輩たちの生きざまや行動やことばである。それらの背中に学び、そのことが心の糧になったことは確かである。
背中に学んだことを「座右の銘」として、自らの座右の銘は学んだことを「率先垂範」することとして取り組んできたつもりである。いわゆる「背中に学び、背中で教える」ことこそ現場の管理として人の心を動かす最大の要素ではないかと改めて思う次第である。
安全の鐘高らかに−背中に学ぶ現場の管理 丹羽三千雄
サブタイトルにかかれている文章もこれを示唆している。
Googleに聞けばすぐにそれっぽい答えが返ってくる時代、少し時代に合わなくなっているかもしれないけど、それでもなお僕はこれはそのとおりだと思う。
自らが動いて示さなければならない。
あらためて心にささったです。
まとめ
現場での経験談ひとつひとつが苦労の末の取り組みで、本当にすばらしい本だと思う。
設計のことにも触れられていて、マシンの設計も安全に配慮しなければならないと改めて思う次第である。
現場での仕事をしたことがない人にはイメージがわかないかもしれない。
でも、たとえばファーストフード店のアルバイトをしている方だって、「現場で仕事をしている人」になる。高温の油を取り扱う現場は危険を伴う。そこでの安全管理は重要だ。
そう思えば少しは身近に感じられるんじゃないだろうか。
今現在大雨で大変な思いをしている人々がたくさんいて、その救助にあたるかたもたくさんいる。一刻をあらそう場面もあるだろうけれど、安全第一に二次災害なく現場作業が進むことを願う。
ご安全に。