何かためになる本はないかな、といつも探している。最近見つけたのが「プロフェッショナルマネジャー」。
ユニクロの柳井さんが最高の教科書だ、とすら呼ぶほどの本書、初版は2004年だが、今も読まれ続けているようである。
僕はこの本を読んで大きく視野が広がった気がした。
経営者は何を考えて行動しているのか?
現場としてどのように情報を上げていくべきなのか?
会社に勤めてある程度年数が経ち、全体感が見えてくるくらいの頃に読むと発見がたくさん得られるのではないだろうか。そんな本だった。
どんな本か?
綺麗な経営論を述べている本ではない。
元ITT最高経営責任者のハロルド・ジェニーン氏が自身の経験をもって考える経営の本質を語ってくれる本である。
ジェニーン氏は数多くの経営判断をしてきた。1人違う景色を見ていたようである。常にハードワークをし、「経営をしなければならぬ」と考え、主張し続け、企業経営を行ってきたジェニーン氏の言葉は重みがある。
修羅場を数多くくぐり抜けてきたであろう方の貴重な考え方を、たった1400円程度で学ぶことができる。
この本がオススメの人
企業の経営に関わる人、その意識がある人。ある程度視野を広く会社の仕事を俯瞰できるようになってきた人。
経営者の方はもちろん。例えば課長でも、会社全体のことを考えながら一つの小グループをまとめているなら、本書から大きな気づきを得られるはず。
僕は、「経営者がなぜ数字にこだわるのか」をこの本を読んで理解できた気がした。
数字を作るのって時間と手間がかかるもの。
「そんなデータを取ってどうするんですか?」と思うことは現場にいるとたくさんある。「それをやる目的は?」、と。
数字を作ってみないと何が見えてくるのかはわからない、そういったケースもあるのだ。経営者が大きな会社の舵取りをするにあたって重要な指標なのかもしれない。
仕事をする上でそこをしっかり理解しなきゃいけないな、と気付かされた意味で、この本を読めたのは本当に大きかった。
本書で特に心に残ったもの
ジェニーン氏が力強く主張する言葉の数々。ここでは全ては挙げられないが、とくに心に響いたものをあげていこうと思う。
終わりから始める
《三行の経営論》
本を読むときは、初めから終わりへと読む。
ビジネスの経営はそれとは逆だ。
終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ。
経営者の評価は、業績という基準で行われる。原著では“Performance”という単語が使われていて、“結果”だけではなく、現在進行形の“状態”や“技量”も合わせて意味して使われている。
業績は長期にわたって会社に組み込まれるもの。業績を上げるために、まず目標を定め、そしてそこに向かって何が必要かを明確にし、課題を解決しながら前に進んでいく。
ユニクロの柳井さんもここの重要性を強調している。
これはエンジニアリングにも通じる。
何が到達点で、そこに至るまでに何をしなければならないのか、何となにが結びついているのか、クリティカルパスを意識しながら業務を進めないと工程通りに進まない。
経営も一緒ということ。
そうすると、目標の置き方が大切になる。通例事業計画を年度始めに作るけど、本書を読んでココの重要性が本当によく理解できた。
おこなうこと
しかし、言うは易く、行うは難しだ。肝心なのはおこなうことである。
ジェニーン氏は実践することの大切さ、そして失敗から学ぶことの大切さを繰り返し強調する。
ただ安定だけを求めては企業は成長できない。官僚的な仕事ばかりになってしまう。
もちろん会社が傾くほどのリスクを負って失敗することはできない。しかし常に目標に向かってハードワークはしないと競争に打ち勝てない。
肝心なのはおこなうこと。
うむ、忘れてはいけないことである。
びっくりさせてはいけない
ノー・サプライズ!(びっくりさせるな)
問題を見つけたらすぐに対応を図れば、ダメージを小さく抑えることができる。これは仕事をするにあたっては基本なのだが、なかなか実践は難しい。
「まぁ言わなくても後でなんとかなるだろう…」
「時が解決するだろう…」
そんな風に甘くみていて取り返しがつかなくなってしまうことが多々ある。大企業の失敗がよくニュースになるが、あれは現場の声が経営者に正しく上がっていないことが原因だと僕は見ている。
だからここは日常の仕事でも意識するようにしている。
あまり心配させすぎるのもよくないけど、あとで「もっと早く言ってくれればよかったのに」と言われるよりはマシだと思って行動している。
ちょっとしたところでその話に触れておくことがコツ。
「これはもしかしたらこういうリスクがあるかもしれません」、と。
精神衛生上も不具合やトラブル関連の案件を自分だけで抱えておくとよくないもの。早めに上司、上層部にそれとなく伝えるのがよい。
本当の事実を!
プロフェッショナル・マネジメントという最高の芸術は、“本当の事実”をそれ以外のものから“嗅ぎ分ける”能力と、さらには現在自分の手もとにあるものが、“揺るがすことができない事実”であることを確認するひたむきさと、知的好奇心と、根性と、必要な場合には無作法さをもそなえていることを要求する。
ここは本書では何度も強調されていた。
「事実」にもいろんな種類のものがある。“揺るがすことができない事実”を確認することの大切さ。
1人からだけ聞いた情報って、意外と正確じゃなかったりする。その人のことを疑うわけではなくて、幅広い人から話を聞いた方が多面的に捉えることができる。
また、数字ひとつ取ってもその数字がどのように計算されたものなのか。どこから引っ張ってきたのか、まで確認しないと判断を誤ることがある。
また、ときにそれだけでは不足していて、自ら現場を見たり、自ら調べることによって事実とされるものが違っていることに気づくこともある。
経験や知識が違えば事実の捉え方が異なってしまう。これは経験上とても納得感があるものだった。
トラブル対応もそう。原因がすぐにわかることは少ない。しかしみんなすぐにあたかも原因がわかったかのように話すことがある。
「ちょっと待て、本当にそれが原因なのか?」突っ込んでいくとまた判ることがあったりするもの。
あんまり聞きすぎても嫌がられるけれど、「事実であることを確認すること」の重要さをあらためて認識。
数字と目標達成
しかし、経営の効験を判定するのは主観的な行為ではない。それは四半期または年度の終わりに、損益計算書によって測定される。その数字を見れば、何が起こったか一目瞭然である。つまり、マネジメントは目標を達成したか、しなかったかのどちらかだ。
仕事の頑張りや過程を理解してもらえず評価してもらえないとモチベーションが下がるというもの。
誰もが素晴らしい結果を得られるわけではない。環境による影響も大きい。
でも、「マネジメントは目標を達成したか、しなかったかのどちらかだ」。
株主は言い訳を聞いても納得しないだろう。欲しいのは結果。
ここも当たり前だけど、重要なんだなと。言い訳をして自分を納得させてしまうとそれ以上に向上していかない。
結果を徹底的に求める姿勢が経営者には必要なんだろう。
現場で働く方は大変なんだけど。
その他の内容
起業家精神や取締役会に関する項も新鮮だった。
取締役会のあり方について、わかりやすく説明してくれる本に始めて出会った。
どうしてうまくいかないのか、について人間についての鋭い洞察をベースとした解説はとても鋭い。
若干自嘲気味に話を進める著者は一部諦め気味な雰囲気も出しつつ、アメリカの将来についての希望を本書の後半に書き連ねていく。
これはこれで勉強になった。
おわりに
少し古い本かもしれないけど、人が営む企業の経営において本質はあまり変わらないのだと思う。
数多くの成功と失敗を経験し、それを語ってくれる本。非常に貴重な経営の教科書と言えるだろう。
このマネジメント手法が必ずしも自分の現場の役に立つかどうかは別の話だと思う。けれども、読後、確実に視野は広がった。得るものは多かった。
さいごに。マネージャーとして、正しい情報を正確に把握しなければならない。これは改めて心にとどめておくべきと思う。
中間管理職は一番現場に近いマネージャー。極めて重要な立ち位置にいる。情報を正しく認識し、正しく経営層に伝えていく責任がある。
事実は何なのか、それはどのように得られたものなのか、どう言った性質のものか、それを把握し、正しく伝えるとともに、もちろん自分の考えも伝える。
ここを意識していきたい。