「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」を読んだ。
エネルギー産業の近い未来を考え、今後どのような変化が起きるのか、根拠や考え方も含めてまとめてくれている書籍。
まず最初に、タイトルに「エネルギー産業」「Utility」とあるけれど、大半が電気の話となっている。
水道事業のことも後半で触れられているが、石油、ガス、運輸、通信の分野は議論の対象外となっている。(電気を扱う上で重要な役割を担うであろう電気自動車や水素といったキーワードは出てくる。)
謝辞を読むと理由がわかる。
この本の着想は、「筆者らの一部が所属する東京電力ホールディングスの経営技術戦略研究所で2050年のエネルギー事業の姿を予想するための議論を始める中で生まれたもの」だからである。
なるほど。
生活に欠かせない電気事業の将来。興味がある方は読んでおいたほうがよい内容となっている。
この本で何が学べるか?
- 電気事業の仕組みや市場原理
- 自由化制度に対する課題(競争と安定供給)
- 発電所が提供している3つの価値とは
- 将来我々の電気代はどうなるのか?「電気代」という名前がなくなる?
- 人口減少の影響。エネルギー事業にどのようなインパクトを与えるか?
- etc.
主に電気事業に関して、さまざまな観点から議論がすすんでいく構成。
電力会社が担う電気事業に関する内容については若干専門性を問う気がする。「発電所」や「kW」「kWh」といった言葉に馴染みがないとちょっと難しいかもしれない。
この本が発行された後に、北海道で電気のブラックアウトが発生してしまったが、あの事象の原因に関する議論はこの本を読んでおくとよい。分散電源や電源容量のアデカシーと制度設計の話。
一方、我々の生活に関する記述はとても興味深く読めるだろう。
面白かったポイントについて、いかにいくつか紹介したい。
「所有から顧客体験へ」のトレンド
モノに魅力を感じない消費者
こうしたデジタルの時代の変化は、消費者も変えようとしています。その象徴的な動きが、製品・サービス自体に無関心な消費者の登場です。モノの「所有」から「利用」へと表現される、ニーズの変化が確認されています。製品価値や購買体験ではなく、利用体験に価値を置き、成果が上がった場合には追加の費用負担もいとわない消費者も現れています。
わかりやすいところで言えば、自動車。
若者の車離れはよく議論されているけど、これは時代の流れ。メンテナンス費用や保険代、駐車場代はかさむし管理の手間もかかる。
なのに、一般的に都会で車を所有しても90%以上の時間は車庫にあるというのが実態だと聞いたこともある。
だから必要なときに移動の価値を提供してくれるカーシェアリングサービスが今は大きく伸びている。
将来は、自分で運転することすらしなくなる。自動運転が実用化されれば、スマートフォンのアプリで自動運転タクシーを読んでピンポイントでピックアップしてもらって行き先まで連れてってもらう時代になるだろう。
「車」じゃなくて「移動の便利さ」を買う
ミニマリストは時代の流れなのだ。
ユーティリティの小売も影響を受ける
社会のニーズが「所有」から「利用」に変化しつつあること、そして…..消費者は、テレビや洗濯機を購入する代わりに、「いつでもどこでも自分の好みに合った映画を見ることができる」サービスや「いつも衣服を清潔な状態で収納してくれる」サービスを購入するようになるかもしれません。この世界では、消費者は電気を購入する必要がなく、家計から電気代が消えてしまいます。
僕らは電気が欲しくて電気を買っているわけではない。
ガスが欲しくてガスを買っているわけではない。
冷蔵庫や冷房、スマートフォンを使うために電気を買い、暖かいお風呂や料理をつくるためにガスを買う。
欲しいのは便利な生活。快適な空間。
「便利な体験を売る・買う」という時代はもう来ている。レンタル自転車、ファッション(洋服)レンタル、レンタルスキャナ、レンタルスーツケース、etc..
レンタル〇〇で調べてたらレンタル彼氏っているサービスもあるらしい。なんだそりゃ。。。でも経験を売る、という観点で言えばこれも同じカテゴリー?と言えるのかも。
人口減少とユーティリティ
1億3000万人ぐらいいた人口も2050年には1億人程度になってしまうと言われている。
以前読んだ「縮小ニッポンの衝撃」では地方の状況がリアルに書かれて、その実態に衝撃を受けた。
人口減少で進むのは人口の集中と過疎化。小さな村はサービスを維持できなくなり破綻する(すでに破綻しているところもある)。
この問題はユーティリティ事業にも波及するという。
人の少ないところにも送電線は必要だ。
今は「ユニバーサルサービス」という言葉もあって、みんなが均等に維持費や運営費を負担している。でも人が住まないところの設備にどのくらいお金をかけるのか、という問題がある。
ほとんど人がいないエリアにある設備のお金を都会に人々は払うことになるが、それは全体最適なのか?という話。
人口の少ないエリアは、人口の多いエリアの人たちが送電設備の維持費や運営費を負担してくれているのであまり問題だと思わない。送電設備もそのまま維持して欲しいと思う。
だけど、必要ない設備は本来撤去し、スリム化していくべきで、今の制度ではそういったインセンティブが働かないという。
言われてみればその通りかも。
一方で、水道料金は地域によって格差がある。2013年4月1日時点で山梨県富士河口湖町が最安で37円/m3、最高で群馬県長野原町の539円/m3。
こんなに差があるなんて知らなかった。
水は地域によるところもあるのだろう。でも人口が少なければ電気代が高い、なんてことになったら地方に本当に住みにくくなってしまうと思う。国はバランスの取り方に苦慮するんじゃないだろうか。生活格差が大きすぎるのは平等じゃない気がするから。
おわりに
本書のあとがきは最後こう締めくくられる。
パーソナルコンピューターの父と呼ばれるアラン・ケイの言葉、「未来を予測する最良の方法は、それを発明することである」を信ずるならば、望ましい未来の実現は私たち自身の選択に委ねられているのです。
僕はこの考え方に賛同したい。
未来は僕らで決めていく。
考えながらいい方向に向かっていくのがいい。
そのためには、みんなが世の中の仕組みや生活に関わるシステムを理解する必要がある。
こういった本を今後も読み続けて何かを発信していければと思う。